消費者との交流を通して
地域酪農に新たなイメージを創出

〜生産現場から生まれた構想を実現した高千穂牧場〜

高千穂牧場
牧場長 野崎照世



     
   宮崎県の酪農は、昭和30年、霧島集約酪農地域の指定を受けて以来、高温・多湿という西南暖地特有の条件を克服しながら、暖地酪農として定着しており、生乳の県外移出割合65%の原料供給地帯となっている。都城・北諸地域では、酪農専門農協である宮崎県南部酪農協及びその出資会社であるM乳業会社と酪農家とが一体となって酪農振興に取組んできた。そうした中から、酪農生産現場と消費者の接点となる牧場建設の構想が生まれ、高千穂牧場が実現した。高千穂牧場は、様々な工夫を重ねながら目標の実践に努めている。
 本県審査委員会においては、以下の点が高く評価された。
  1.  高千穂牧場は南部酪農協組合員が参加して発足し、地域酪農への理解促進を牧場運営の基本理念とし、家畜とのふれあいや体験研修などに幅広い参加者を得て成果を上げている。

  2.  消費者との接点という目標を掲げ、できるだけ多くの来訪者を受け入れることを重視して入場料・駐車料等を徴収せず、牛乳・肉製品の販売を中心に経営安定を達成し、オープン13年目の平成16年3月には累計入場者数が1,000万人を越え、消費者との接点としての役割を果たしている。

  3.  体験研修は接点牧場として重要な営業種目であるが、年間の体験参加者数は1万人前後に達しており、牛乳・肉製品の手作り加工体験という目的意識を持った意欲的な参加者数も年間4〜5千人に上っている。
     また、牧場が用意した体験コースとは別に、中学・高校生、学校職員を中心に、家畜管理等の農場作業、売店・レストランでの消費者と向き合った製品販売などの体験学習への参加も数多い。
     このように、幅広い分野の人々に、多様な形で酪農・農業を理解する機会を与えたり、社会的な課題である「食育」という面での役割など、多面的な成果が高く評価される。

  4.  平成15年、家畜ふん尿によるメタン発酵、発生したガスを利用して発電するシステムを導入し、最新の技術を駆使した環境保全型農業を展開している。
     こうした先端的な取り組みは多くの人々の関心を集め、消費者に向けて生産現場から発信する新たな情報として高く評価される。

  5.  高千穂牧場は、乳牛100頭を飼養し、消費者との交流を重視しながら、生産物の付加価値向上によって安定した経営を続け、常雇用60人、アルバイト延べ2,500人の雇用を創出している。また、年間60〜80万人の新たな人の流れを生みだし、地域の活性化に大きな役割を果たしている。
 


1.地域の概況



     
   都城市は、宮崎県の南西部、宮崎市と鹿児島市のほぼ中間に位置し、古くから南九州の交通の要衝として栄えてきた。都城市と周辺の町を結ぶ国道は早くから整備され、宮崎自動車道、高規格道路も整備され都城市の拠点性はますます高まっている。自然的には、霧島連山の裾野に広がる平坦で広い土地と、大淀川を主流とする豊富な水、真冬にも絶えない緑を保ち、火山灰性不良土壌や台風常襲地帯の要因はあるものの、概ね農業生産の諸条件が整い、食料供給基地たる南九州の中核的役割を果たしている。


 市の面積は、306.7km2、農用地面積は全体の26.7%で、8,202haとなっている。
 市の人口は133千人、このうち農業人口は20,860人と16%を占める。農家数は6,340戸で専業農家率は26.3%と比較的高い。

平成12年 人口及び農業就業人口、農家戸数等

単位:人、戸
人口 世帯数
  農業人口   農家世帯数
  専業 第1種兼業 第2種兼業
133,337 20,860 51,553 6,339 1,668 676 1,915

 畜産農家数は1,570戸の肉用牛を中心に、酪農、養豚、ブロイラー、採卵鶏の順に合計1,912戸と多く、農業生産額32,552百万円のうち畜産が77%を占める畜産主産地である。
 都城・北諸地域の酪農は、昭和30年指定を受けた霧島集約酪農地域の中心となり、夏季の高温・多湿など西南暖地特有の課題を克服しながら、過半は専業的な規模に拡大を遂げ、暖地酪農として定着している。

平成16年度畜産農家戸数

単位:戸%
   
  肉用牛 乳用牛 ブロイラー 採卵鶏
戸数 1,782 1,437 141 109 68 6 21
構成比 100 80 8 6 4 1 1


平成15年度農業粗生産額

単位:百万円、%
  畜 産 野菜 その他 合計
  肉用牛 乳用牛 馬他
粗生産額 8,700 7,360 5,980 2,860 50 3,960 2,520 1,430 32,860
構成比 27 22 18 9 1 12 8 4 100
 


2.活動の内容

(1)活動開始の目的と背景


     
 
  1. 地域における酪農の状況
     宮崎県の酪農は、昭和30年、霧島集約酪農地域の指定を受けて以来、行政的な育成施策とも相まって近代酪農業へと発展してきた。とくに、昭和40年代、「不足払い法」を柱とする酪農3法の制定、霧島広域農業経済圏整備事業による牛乳の広域流通体制整備など急速に酪農の経営基盤が確立された。これと合わせて、酪農現場においても、夏季の高温・多湿など暖地特有の諸課題を徐々に克服しながら過半の酪農家が専業経営としての規模拡大を遂げ、暖地酪農として定着してきた。昭和60年頃、県内の生乳生産の内、用途別には県内飲用乳向が4割、他は県外飲用向が4割、加工向2割という状況で、原料乳供給地域としての性格が強まっていた。牛乳流通の広域化の進展や産地間競争が激化する情勢の中で、地域酪農の発展は乳質改善等高品質化と牛乳の消費拡大に依拠するところが大きく、消費者の健康・安全志向に対応して、産地イメージの高揚や銘柄確立が地域酪農の発展上の課題となっていた。

     酪農の生産者団体としては、集約地域全体を範囲とする霧島酪連が結成されており、単協としては、総合農協の他に、北諸地域及び鹿児島県の一部を業務範囲とする専門農協、宮崎県南部酪農業協同組合(以下、南部酪農協という。)が活動していた。昭和35年、南部酪農協を中心に両県の4専門酪農協が共同出資して、M乳業会社が設立された。M乳業会社では当初、飲用乳生産と余剰乳処理のための練乳生産が中心となっていたが、昭和60年頃には、全国でも中堅の総合的な乳業メーカーとして成長し、九州全域を製品供給エリアとしながら、関西地区の大手生協などとの取引に力を注ぎ、大きな製品供給のルートができあがっていた。M乳業会社は、生協組合員の産地訪問を受け入れるために工場内に見学コースを設置したり、農家研修や交流会など、積極的な消費者対応を行っていた。酪農協組合員にとって、M乳業会社は単なる牛乳の出荷先ではなく、牛乳の生産から加工販売までを分担し合う、極めて一体性の強い関係にあり、M乳業会社は農協活動や農家指導にも大きな役割を果たしていた。こうしたことを背景に、組合員の中でも比較的早い時期から、消費者対策の重要性についての認識が深まっていた。

  2. 消費者との接点となる牧場建設構想
     南部酪農協の内部において、生協組合員など消費者に対して、酪農への理解を広げたり、搾乳や乳製品加工など酪農体験、研修をさせることのできる、酪農生産現場と消費者との接点となる牧場を設置したいという構想が生まれた。昭和59年、組合関係者3人が参加して農業生産法人、有限会社高千穂牧場が設立された。
     牧場の建設には、国の補助事業を活用することとして折衝を重ね、昭和60年、農業公社牧場設置事業「霧南地区」として採択された。事業主体は宮崎県農業開発公社、事業期間4年(昭和60〜63年)の計画であった。

  3. 建設予定地
     幾つかの候補地の中から、都城市の北西部、霧島山麓の高台地で、鹿児島県との県境に位置する開拓地が建設予定地に選定された。予定地の面積は約35ha、地区内の地権者数20数名、うち3名は家屋の移転が必要といった条件の土地である。地区は、当然、農業振興地域に含まれるが、県境の道路を挟んだ鹿児島県側は、温泉群を中心にホテル、ゴルフ場等スポーツ、レクリエーション施設も整備されたリゾート地としての開発が進みつつあり、間近に霧島屋久国立公園の中心である霧島連山が一望できる。こうした立地を背景に、牧場は近代的で効率的な酪農経営を展開し、酪農に対する産地イメージの高揚や加工・販売による生産物の付加価値の向上を目指すこととなった。

  4. 構想推進上の課題
     牧場の構想実現の上で幾つかの課題があった。
     一つは、農地法に関連する。農地法による農業生産法人の事業範囲は「農業及びその付帯事業」と、極めて制限的に規定されていた。平成5年になって、「農産物の加工・販売」までと、生産物の付加価値向上を図るという観点からの法改正が行われた。
     高千穂牧場は、生産物の加工・販売を目指し、さらには、体験・研修も重要な事業種目と考えており、農地法にもとずく農業生産法人事業の範囲を超えることが明らかであった。このため、最終的には牛乳生産を行う農業生産法人「高千穂牧場」と、主として牛乳・肉の加工販売を行う「(有)高千穂デーリィファーム」の2法人を設立して、一体的な運営によって構想を実現することとなった。
     他の一つは、牛乳処理加工施設の設置である。建設地は霧島集約酪農指定地域に含まれるが、酪農振興法は集約酪農指定地域内の乳業施設の新・増設を厳しく規制しており、加えて、生乳流通の広域化という当時の時代背景もあって、乳業施設の新設の認可は相当厳しく運用されていたことである。高千穂牧場が整備しようとする乳業施設は、入場者に新鮮な牛乳を飲ませたり、手作り的な加工体験のための施設で、処理能力は極めて小規模のものである。最終的には、この地域限定型、小規模の処理能力が決め手になり、数回の行政指導等による手直しや、地区内の関連乳業者の同意等の手続きを経て、昭和63年5月、知事の新設承認が得られた

  5. 乳業会社の支援
     M乳業会社は、昭和35年、4酪農専門農協の出資で発足した。当初、極めて弱小の農系プラントで、飲用牛乳や練乳製造など、零細規模の生産からスタートしている。こうしたことから、高千穂牧場が消費者向けの体験型加工施設を設置するについては、M乳業会社は、体験型加工施設の規模、配置等の施設設計や製造技術の供与など、その経験を踏まえて技術的な支援を行ったほか、木製チャーンやアイスクリーム製造器など古い時代の加工機械、器具を展示用に貸与するなど、全面的にバックアップした。
     このように、農協組合員による牧場構想の推進に、農協が出資する乳業会社が大きな後ろ盾となり、製品販売先の消費者が、新しくできる牧場を利用するという意味で、まさに、組合員、農協、乳業会社の連携した活動が歩み出すこととなった。
 


(2)具体的な活動内容


     
   高千穂牧場は乳用牛100頭の近代的な放牧利用型の乳牛牧場であるが、とくに、消費者との接点としての役割を重視し、緬羊、馬の導入、乳製品の加工・販売施設、加工実習等の体験機能が整備されていることが大きな特徴である。牧場施設の建設は、牛舎等の生産施設は農業公社牧場設置事業で、加工・体験施設は地方競馬全国協会の畜産振興補助事業で、販売・レストラン施設は単独事業として整備された。

  1. 生産施設の整備
     高千穂牧場の生産施設は、農業公社牧場設置事業によって、宮崎県農業開発公社が事業主体となり、昭和60〜63年の4カ年をかけて整備された。総面積約35haの用地の中に、基盤整備は草地造成19.9ha、用地整備など24.1ha、利用施設は牛舎1,016m2、糞尿処理施設など、牧場用機械はトラクターなどが主要なもので、総事業費4億1,300万円余で完成し、昭和63年3月、管理主体となる(有)高千穂牧場に引き渡された。
     牧場は、効率的な牛乳生産とともに牛乳の製品加工・販売、消費者とのふれあいを運営の柱としており、乳牛はジャージー種、ガンジー種、ホルスタイン種100頭を導入し、それぞれの特徴を生かした手作り製品の製造・販売を目指した。また、草地利用における乳牛との相性、肉利用のため緬羊60頭(サフォーク種、コリデール種)も導入し、ふれあい機能を多様化するため馬7頭(ハーフリンガー種、ポニー種)も導入された。

  2. 加工・体験施設
     高千穂牧場は、生産物の加工・販売、消費者とのふれあいを重要なテーマとしている。これらのテーマに関連した施設の設置・運営は農業生産法人である高千穂牧場、農業公社牧場設置事業という形での整備は困難なことから、(有)高千穂デーリィファームによって、地方競馬全国協会の助成と、一部県単補助事業を受けて整備された。加工施設の整備費は、総額199,305千円で、平成3年3月に完成した。
     研修センターを付設した加工処理施設は、延べ966m2と小規模で、飲用牛乳の瓶充填機、バター、ヨーグルト、チーズ加工の一連の機能を有し、肉加工施設には燻煙室なども備わっている。施設の処理能力は極めて小規模であるが、体験研修のために、いずれの施設も、1回当たり15〜20名程度の体験が可能なスペースを持っている。

  3. 販売・レストラン施設
     家畜飼養施設、加工・体験施設など補助事業対象となる以外の売店、バーベキュウハウス、小動物レース等を行う動物ふれあいランドは(有)高千穂デーリィファームの単独事業として整備された。

  4. 「入場料、駐車料なし」〜すべての来訪者を迎え入れる〜 
     高千穂牧場は平成3年5月1日、全面的にオープンした。牧場は、近代的な乳業牧場であると同時に、酪農生産現場と消費者との接点としての機能を重視している。「接点」とは、散策、観光、見学、視察、家畜とのふれあい、加工体験、実習、研修など様々な形で、家畜、草地、牛乳・乳製品など牧場のもつあらゆる機能に接し、酪農生産を身体で感じ、理解して貰う場を提供することである。また、幼児から大人まで、観光客から目的意識を持つ消費者団体まで、すべての人々との対応が必要となる。このため、視察、体験、見学などできるだけ幅広い入場者を受け入れることとし、牧場への入場に対する料金を徴収しないことが最も基本的な運営原則となっている。
     場内には一般車の進入はできないため、入場者は、牧場入り口の駐車場で下車し、歩いて牧場中央部の家畜舎等に行き、自由に見学や家畜とふれあうことができる。 また、草地において、放牧されている乳牛や緬羊とのふれあいも可能で、人気が高い。

  5. 家畜とのふれあい・加工体験研修の充実
     消費者と酪農生産との接点を目指す高千穂牧場において、家畜とのふれあい、加工体験研修をどう設定できるかが重要なテーマであった。
     全ての入場者に畜舎、放牧草地を解放することによって、牧場の雰囲気を身体で感じ、乳牛、緬羊、馬などの家畜と触れ合うことができるようになった。
     体験コースは、オープン以来、徐々に充実が図られており、平成3年には、乳搾り、子供を対象とする乗馬体験コースが開始された。その後、平成11年にはバター手作り体験、13年にはソーセージ手作り体験、15年にはアイスクリーム手作り体験の各コースがスタートした。体験コースは、基本的には土、日、祝日の開催となっているが、正月、5月の大型連休、夏休み期間は毎日開催される。また、学校行事による来場等の場合、平日でも体験を受け入れている。
     すべての体験コースは、職員の指導、付き添いの下に行われるが、とくに、手作り体験コースは材料の準備、施設のスペースの関係で15〜20名の定員が設定されている。

  6. バイオガス発電の取り組み
     高千穂牧場では、乳牛100頭、緬羊60頭、馬7頭が飼育されており、家畜の排せつ物は日量5.2tに達している。設立以来、固形分は堆肥化、尿は尿溜で腐熟化して草地に散布してきたが、毎日、多くの来訪者を迎える牧場であり、散布場所の確保に苦労が多かった。また、草地の大部分が緩やかな傾斜地であり、大雨時など、堆肥成分の流出の危険性も無視できない状況であった。
     一方、地球温暖化が社会的な関心事となり、農業サイドでも資源循環や環境保全型農業の推進が大きな課題となっている。消費者との接点を目指す高千穂牧場としても、最先端の技術を駆使して環境保全の推進を図るため、平成15年、バイオマス発電プラントを導入した。施設は、国の資源循環型農業・食品産業総合支援事業及び県単独事業の補助を受け、総経費135,335千円で、16年3月完成した。 
     このプラントは、家畜ふん尿をメタン発酵させて分解・処理し、処理の過程で得られるバイオガスを利用して熱や電気を発生させ、発酵残渣は有機性肥料として活用するもので、家畜ふん尿の合理的な処理とともに、使用電力量の大幅な削減を目指したものである。


 


3.活動の成果・評価


(1)活動成果の内容


     
 
  1. 牧場の運営形態
     高千穂牧場は、昭和59年の設立から22年、平成3年5月のオープンからでも14年を経過している。この間、牛乳生産を中心とする近代的な酪農牧場としての経営を続ける中で、牛乳・肉製品の加工・販売を核に各種の体験研修のサービスを提供しながら、酪農生産と消費者との接点の場となり、広く酪農理解を進めるという設立に当たって掲げた目標を実践している。牧場の運営形態は、家畜飼養、草地管理等の農場生産は農業生産法人である(有)高千穂牧場、牛乳・乳製品並びに食肉加工、販売、加工体験などは(有)高千穂デーリィファームという2つの法人によって経営されるが、一体的な連携のもとに運営されている。

  2. 1,000万人を越えた牧場の入場者数
     消費者や一般市民と酪農生産との接点の場となり、酪農への理解を広げることは高千穂牧場の基本的な目的であり、設立以来、できるだけ多くの人々が来場し、家畜と接したり、各種の体験を行えるように、入場料や駐車料金の徴収はない。 この点が、この種の牧場の一般的な姿との基本的な違いである。こうしたこともあって、高千穂牧場には、設立以来、消費者・市民はもちろん、小中学生、修学旅行の高校生など極めて幅広い人々が、様々な目的を持って来訪しており、設立の目的は達せられつつあると言える。牧場入場者数は、平成3年5月のオープン以来、平成14年まで、年間70〜80万人、平成15年以降、5月の連休時の天候不順や台風の襲来で入場者数がやや減少しているものの、年間約60万人のペースで推移している。平成16年3月25日には、オープン以来の入場者数の累計が1,000万人に達した。
     高千穂牧場の出現は、この地域にそれまでの一般的な観光、レクリエーションのみでない、地域産業の柱である農業と結びついた新しいタイプの、大きな人の流れを作りだしている。こうした地域づくりに果たしている高千穂牧場の成果は、社会的にも高く評価され、平成8年、宮崎県知事賞が授与されている。

  3. 多様なふれあい・体験研修の参加形態
     家畜とのふれあい、乳製品等の加工体験は高千穂牧場の重要なテーマである。
    牧場を訪れた人は、畜舎や放牧地で乳牛、馬、羊など家畜と自由にふれあうことができる。遠足や総合学習の一環で牧場を訪れる小学生も多いが、自然とふれあう機会の少なくなった子供達が、この牧場で家畜や草花、土に触れ、あるいは家族と一緒に楽しみながら牧場を体感できることの意義は大きい。
     体験コースは、オープン以来、徐々に充実されており、一般的な家畜とのふれあいの他、乳搾り、乗馬、加工体験としてはバター、アイスクリーム、ソーセージの手作り体験コースの5コースが用意されている。

     体験コースの参加者は、年間12千人前後で推移しているが、体験の種類別の参加者(平成16年)は、搾乳体験47%、乗馬体験15%、手作り加工体験ではバター28%、ソーセージ6%、アイスクリーム4%となっている。体験コース参加者の中でも、手作り体験コースへの参加者は極めて意欲的な人々であり、酪農理解を進めるという点では積極的な意味を持つ人々であるが、その数は年間4〜5千人に上っている。
     これらの体験コースへの参加のほか、中・高校、教育委員会、市町村のプロジェクト、あるいは大学生のインターンシップ等多様な形の、家畜管理、売店、レストランでの職場体験も数多く、これらの体験参加者は中・高・大学生61%、学校教職員20%、市町村職員7%、一般市民12%と幅広く、「食育」という観点からの効果も高い。
     このように多様な形で、幅広い人々の参加を得て、家畜とのふれあい、体験研修が行われていることは、消費者との接点という牧場の設置理念が実現されつつあると評価できる。

  4. 雇用の創出効果
     高千穂牧場は、乳牛約100頭を飼養する牧場であるが牛乳の生産から加工・販売まで総合的に展開することにより、常時雇用の職員は約60人に達している。高千穂牧場への来訪者は年間60〜80万人であるが、5月及び8月の2ヶ月で約3割が集中しており、繁忙時を中心としたアルバイト雇用も延べ約2,500人(8時間換算)に達し、高千穂牧場はこの地域でも有数の雇用の場となっている。

  5. 知事賞の受賞
     平成8年、宮崎県は地域振興を図るうえで地域活性化活動の重要性に着目して、先導的な活動を行った人、優れた成果を上げたプロジェクトを表彰する制度を設けた。この制度による第1回の「宮崎県地域づくり奨励賞」は、大賞及び奨励賞2点が選定され、高千穂牧場は奨励賞として知事賞を受賞した。受賞理由では、「高千穂牧場の建設、運営を通して農村に新たなイメージを創出するとともに、地域の観光振興や酪農関連産業の振興に大きく貢献した」と、新たなイメージの創出という、これまでにない観点からの地域の産業振興への寄与を高く評価している。

  6. 地域の変化  
     高千穂牧場の建設に着手するまで、宮崎県側は開拓地であり、荒廃地も散在する利用度の低い農業地域であった。一方、隣接の鹿児島県側ではホテル、レクリエーションなどのリゾート開発が進みつつあった。そうした中に、放牧された乳牛を見たり、家畜に触れ、牛乳製品の手作り体験をしながら、酪農産業への理解を広げることを目的とする高千穂牧場の出現は、周辺地域に強いインパクトを与える出来事であった。
     それまで何処にでも見られる観光、レクリエーション地域であったが、高千穂牧場を中心に、大きな人の流れができるとともに、公共保養施設、農業あるいは他分野の特徴のある施設等ができ、地域の新しい個性となっている。高千穂牧場の出現までは、それぞれの施設が客を奪い合う競争的な関係でしかなかったが、現在では、高千穂牧場が核となって、地域の共同イベントも開催されるなど新しい状況が生まれつつある。

  7. バイオガス発電
     バイオガス発電プラントの導入は、消費者との接点を目指し、毎日、多くの来訪者を迎える高千穂牧場が、汚染の懸念をなくし、牧場の環境を最善に保つための対応であるが、資源循環や環境保全型農業の推進という現代農業のテーマに取り組み、成果を上げるという積極的な意味を持っている。
     このプラントでは、家畜ふん尿をメタン発酵させてバイオガスを発生させ、そのガスを利用して発電する。現在まで1年半の運転実績をもち、発電の状況も安定しつつある。安定期に入った後、このシステムによる発電量は牧場内の一日平均使用電力のほぼ50%に達している。
     家畜ふん尿中の有機物は、バイオガスプラントでの発酵過程で90%が分解され、残渣は消化液として貯留槽に排出される。消化液は、サラッとした性状で、窒素の50%以上がアンモニア態窒素として含まれ、即効性の高い液肥として草地施肥に使用される。
     高千穂牧場では、現在、日量5.2tのふん尿を処理しているが、発酵槽、ガス貯留槽等処理能力には余力があり、レストラン残渣、乳業会社の廃棄物等の処理を行うことを目指し、産業廃棄物運搬・処理業の許可申請中である。
     環境保全に配慮したバイオマスプラントによるふん尿処理は、入場する多くの人々の関心を集めており、消費者に向けて生産現場から発信する新たな情報として高く評価されている。


 


(2)普及にあたっての留意点


     
 
  1. 支援体制の存在
     高千穂牧場が運営開始して、約16年が経過している。牧場経営の中で、酪農への理解促進をテーマに掲げ、一定の成果を上げていることに関しては、地域の酪農全体からのバックアップが大きな要素となっている。
     都城市には、昭和35年、宮崎・鹿児島両県の4専門農協が出資した乳業会社が設立されており、農協と乳業会社が緊密な連携活動を展開していた。宮崎県は生乳の供給地帯であり、厳しい産地間競争の中で酪農を伸ばして行くには、高品質化の促進とともに、消費者としっかり向き合い、その理解を得ることが重要という関係者の共通認識があった。そうした状況の中から、「消費者との接点」としての高千穂牧場の構想が生まれてきた。
     (有)高千穂移牧場の構成員は酪農協組合員であり、牧場の設計、加工技術、商品化など様々な分野で、組合、乳業会社の全面的な支援を受けることができた。こうした支援は、高千穂牧場が「消費者との接点」というユニークな理念を掲げて、これを実践し、経営的にも安定した運営を続けていける大きな要因である。

  2. 設立時の理念を大切にし、安易な商業主義を排除
     高千穂牧場には、多くの来訪者があり、入場料や駐車料金の徴収による収益確保が経営者としては大きな魅力である。しかしながら、消費者と酪農生産との接点の場となることを目指す高千穂牧場にとって、まずは、多くの人々に牧場を訪れて貰うことが大事であり、オープン以来、入場料や駐車料金を徴収しない方針を貫いている。入場者は、牧場での一時を楽しんで、そのまま帰ることも少なくない。高千穂牧場としても、これを許容している。
     入場者は、自分で納得した場合にのみ製品を購入し、食事をしたり体験研修に参加して対価を払う。牧場の経営は、その対価によって支えられるわけで、他に見られない厳しい経営条件となっている。こうした経営条件を克服するため、牧場には、常に最良の環境で来訪者を迎え、商品の品質や価格、加工体験などのサービスに妥協のない、最大の努力が求められる。

  3. 牧場の経営方針についての職員の理解
     高千穂牧場への入場者は、多い日には1万人を越える。入場者は、単なる見学者から目的意識を持って研修のために来場した人まで、その範囲は誠に広い。こうした人々に、それ相応の満足を与えることが求められる。そのためには、60人の職員が、牧場の建設理念を良く理解し、一人一人の入場者に接することが不可欠であり、それが牧場の経営をも左右することになる。
 


4.今後の活動の方向・課題等



     
 
  1. 経営の維持・発展
     高千穂牧場も、外部からの入場者に依拠し、経営を維持するという点では、一般的な観光牧場、リゾート施設と同様である。バブル崩壊とともに、これらの施設の経営破綻、身売りが全国的な傾向とさえ言われる状況が続いており、高千穂牧場も県内大型リゾート施設の店舗を撤退するなどのダメージを受けた。
     入場者数は平成6年の925千人をピークに減少傾向にあり、天候不順の影響を受けた15年は582千人と最低を記録したが、その後はバイオガス発電や地区の共同企画イベント等もあり、回復基調を取り戻している。
     高千穂牧場は、消費者との接点となることを目指す牧場であり、牧場を訪問した人々に、家畜と触れ合ったり、酪農・農業、環境等について考える機会を持っていただくことを最も大事にする牧場である。消費者も、一般的な物売りの場所を求めていない。高千穂牧場に求められているのは、豊かな自然であり、元気な家畜であり、安全・安心な畜産物である。そこから発信される、命の糧を生みだし、健康を支える酪農、農業からの真の情報である。高千穂牧場建設の理念を大事にしてこそ、維持・発展が期待できる。

  2. 従業員の意識改革
     牧場建設の理念を体して、来訪者に接するのは全ての従業員である。来訪者が、家畜とふれあい、商品を購入し、加工の体験を通じて酪農・農業を感じ、理解してもらえるかどうかは、サービスに当たる従業員の意識の有り様にかかるところ が大きい。従業員の意識改革は、どの様な企業にとっても終わりのない課題であるが、高千穂牧場にとっては、かなり重要な課題である。

  3. 体験コース等の充実・強化
     体験研修コースは、高千穂牧場の特徴を最も良く表す分野であり、新たなコースの設定など、その充実が望まれる。とくに、来訪者の中に増加しつつあるリピーターの満足度を高めるために、技術レベルに応じて普通、中級、上級などコース区分等も検討する必要がある。

  4. アクセス条件の整備
     高千穂牧場への来訪者は、年間60〜80万人であるが、行楽シーズンには1日にバス30台以上、来訪者数は1万人を越すことも珍しくない。このため、牧場への侵入道路につながる国道223号線で数qに及ぶ交通渋滞が発生することもあり、行政の支援を要請しながら対策を検討すべきである。併わせて、手狭になっている場内駐車スペースの拡充も検討課題である。

 


5.活動に対する受益者の声(評価)



     
  ■山下博三(宮崎県南部酪農業協同組合長) 

酪農家と消費者とのふれあいの場 「高千穂牧場」に期待!!

 高千穂牧場は、酪農を消費者にアピールすること、南九州における酪農後継者の夢を育てるという酪農協仲間の期待を担って、昭和59年12月に設立されました。
 高千穂牧場では、酪農家個人では成しえない広大な土地で、自然を生かした酪農を営みながら、牛乳生産や乳製品製造過程の見学、体験を通して、新鮮な牛乳のPRや消費者の地域酪農への理解促進に努めています。
 とくに、子供達が豊かな自然の中で育てられる乳牛に触れ、乳搾りやバター作り体験を経験すること、子牛の生まれる姿を見ることや子牛との遊びなど、自然と触れ合う機会の少なくなった子供達の健全な心を育て、命の尊さを学ぶ絶好の機会となっています。
 また、環境保護が叫ばれている中で、バイオマスプラントの導入を図り、家畜ふん尿の合理的な処理・利用と同時に、廃棄物エネルギーの活用による自家発電で省資源型経営を行い、全国の酪農家や行政・消費者・教育関係者の視察研修が相次ぐなど、情報の発信基地にもなっています。
 酪農専門農協としては、高千穂牧場が、牧場を訪れた消費者と酪農家が共に考え、語り合い、子供達が自然とふれあい、家族が一緒に楽しめる「場」としての役割を果たし、さらに充実されること、南九州酪農の産地イメージ高揚と牛乳・乳製品の銘柄確立、消費拡大に貢献することを期待しています。
 高千穂牧場で、四つ葉のクローバを探し、幸せを求める家族のほほえましい光景や若いカップルがソフトクリームを食べながら従業員の説明を聞き、質問や牛とのふれあいを体験し、笑顔で帰っていく様子を見るときに、自然に囲まれた牧場の未来への希望を感じる想いがします。
 

 


     
  ■榎木浩一(日南市立酒谷小学校教頭)

癒しの空間「高千穂牧場」に期待!〜社会体験研修を通して〜


 企業等で、接客及び人間関係について体験研修を行い、学校経営に生かすための社会体験研修第1期生として、このプロジェクトの趣旨を最もよく生かせる条件が整った場所として、高千穂牧場を選びました。研修の受入を依頼したところ、快く引き受けていただき、2ヶ月間に渡って、牧場の各業務(乳牛管理、売店、レストラン)を2〜3巡する形で体験研修をさせて頂きました。以下に、この体験研修の感想等を述べてみたいと思います。
 まず、売店において「接客」を中心として研修に入りました。社員の方から、商品の種類や売店での業務内容について懇切丁寧に説明をして頂きました。多くの観光客が訪れる牧場だけあって、乳製品やハム・ソーセージ等の製品がびっしりで、さらにその種類の多さには、あらためて驚かされました。
 早速、お客さんが購入された乳製品をパック詰めにするコーナーを任されました。最初は、店員さんが付き添っての詰め込み作業でしたが、いざ自分一人でお客さんに対応する立場になると、緊張の連続でした。店員さんを横目で見ると、常に明るい表情で、手早く対応をされるのを見て、羨ましく思った次第でした。
 レストラン業務においては、売店と同様に接客を中心とした実務研修を行いました。売店での接客とは若干違い、直接お客さんと接し、注文を伺い、迅速に対応しなければならないということで、機動性と責任感を問われた研修でした。少しでも接客のノウハウを掴むことができたらと考え、店員さんの動きや対応をつぶさに観察しました。きびきびした動きと対応(目配り・気配り)は、お客さんに食事を楽しんで頂く、不快感を与えないという気持ちが表れているようで、その素晴らしさが大変参考になりました。
 家畜部門では、生き物を管理する企業の経営を体験研修しました。「搾乳→牛体手入れ→給餌→放牧・収牧→搾乳→牛舎清掃」の一連の作業を体験しました。私の家もかって養豚をしていたこともあり、家畜との接触にも全く抵抗感はなく、生き生きとして取り組めた研修でした。消費者・一般市民との接点を目指す牧場だけに、牛舎及び乳牛は常に清潔感あふれる状態で、お客さんが、見て、触って、体験して楽しめるための工夫が感じられました。
 以上のような業務の他にも、突発する一時的な作業等も経験しましたが、総体的に勤労の厳しさや経営上の様々な工夫が伺われ、学校経営にも大変参考になる体験研修の内容でした。
 さらに、場長さんをはじめ、社員の方々が経営の方向性を十分に理解した上での取み姿勢や、県内外から訪れるお客さんに対する親切丁寧な接客態度には、大変好感が持てました。
 また、学校関係や地域の親子会等からは遠足や乳搾り・バターづくりなどの体験のために多くの来訪者があり、霧島連山が一望できる大自然の中で、四季を通じて心身共に癒され、楽しみながら命の糧を生みだす酪農・農業を理解できる牧場として、多くの皆さんの期待が集まっていると感じています。
 


6.事例の特徴や活動を示す写真



     
 

 
1.牧場全景
  2.正面ゲート


 
3.ふれあい体験風景

  4.乳搾り体験風景

 
5.ソーセージ作り体験
  6.夏休み乗馬風景


 
7.家畜排せつ物からエネルギーを取り出す
  バイオガスプラント

  8.牧場を彩るひまわりと、もーもー号

 


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